毛皮製品の抜け毛の原因解析
1.はじめに
毛皮製品において、毛は色彩、艶、ボリューム感、豪華さ、防寒性等を決定するため、「毛皮の命」です。毛皮は動物皮を利用した天然物なので少しの毛の脱落は仕方ありませんが、通常の使用中に多くの毛が切れたり、抜け落ちることは毛皮製品の価値を著しく低下させます。
抜け毛を発生させる要因は様々であり、元々毛の低い強度によるもの、製造または加工工程の不良によるもの、消費者の管理ミスまたは不適切な使用によるもの等があります。抜け毛の原因解析は、責任と賠償の所在の明確化、再発防止対策、取り扱い方法の点から大変重要です。
今回は、代表的な抜け毛について、要因別(1.引張り・摩擦、2.腐敗・ヘアースリップ、3.虫害、4.節早、5.皮の漉き過ぎ、6.浮き毛処理不足)に発生メカニズムと鑑定方法を解説します。
2.抜け毛の種類と原因解析
(1)引張り・摩擦による切断
毛は引張りや摩擦(擦れ)により切断されますが、その強さは表1に示すように動物の種類によって異なります。一般的に毛切れを起こしやすい動物はウサギ目、リス・ネズミ等の睾歯目、シカ科等で、ミンク・キツネ等の食肉目、ビーバー・オットセイ等の水棲動物の順に強くなります。毛は毛小皮、毛皮質、毛髄から構成されており、毛皮質が毛の物性を決定します。各動物の毛の毛皮質と毛髄の様子は、図1に示すとおり、シカやウサギでは毛髄が多く、毛皮質が少なく、キツネやミンク、オットセイになると毛皮質量が多くなっていきます。
表1 各種毛皮の刺毛の引張強さ
| 試験項目 |
トナカイ |
ムートン |
ミンク |
ウサギ |
青キツネ |
チキャンラム |
| 直径 μm
引張切断荷重 mN
引張強さ Mpa
切断時伸び % |
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A:シカ B:キツネ C:ミンク D:ウサキ゛ E:オットセイ
F:ム-トン
図1 刺毛の毛皮質と手髄の様子
毛が引張りにより切れる部位は毛基底部です。ミンクの刺毛を引張った時、毛基底部根元で切れるのが80%、毛基底部中央で切れるのが20%でした。一般に刺毛は図2のように紡錘状をしており、毛皮用に剥皮された毛の毛基底部は、毛の成長が退行期から休止期にあるため細くなっているうえ、角質化が不十分なため、機械的強度は低下しています。
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図2 刺毛の形状と切断部位(ミンク)
どれくらいの引張強さがあればよいかを示した基準値案を表2に紹介します。
表2 品質良好な基準値案
出所 日本皮革技術協会
毛皮鑑定法に関する基礎的研究V報告書(1991)
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毛皮の種類
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毛抜け強さ
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| ダークミンク 雄
雌
サファイアミンク 雄
雌
パステルミンク 雄
雌
キツネ 未染色
黒染め
茶染め |
177 mN /本以上
88 〃
206 〃
88 〃
137 〃
137 〃
235 〃
89 〃
137 〃 |
毛は使用中に磨耗(擦れ)されると、ささくれ立ったり、折れ曲がったり、切れたりします。使用によってムートン敷物の羊毛がささくれ、切断している様子を図3に示します。コート類では袖口、ポケット口、裾において擦り切れクレーム例があります。
また、元々毛の弱い毛皮を加工業者や消費者が用途を誤って使用したとき、抜け毛を引き起こします。例えば、毛の弱いトナカイ毛皮を敷物に使用したところ、毛がポキポキ折れて切れてしまった。毛の折れ易いゴート毛皮をハンドバッグに使用したため、擦れてハゲになってしまった等です。
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図3 摩擦によるムートン敷物の切れ毛
(2) 腐敗・ヘアースリップによる脱毛
脱毛は毛色内で毛根の固着が緩められ、毛根から抜け落ちることを言います。図4に毛根から抜け落ちたミンクとキツネの脱毛例を示します。脱毛の原因としては、剥皮された毛皮の乾燥不充分や軽製不良により毛色が細菌による腐敗を受けたり、保管中に大気、温度、湿度、油脂の酸化、薬品等による劣化を受けた場合があり、組織学的および化学的な検査が必要となります。
A:ミンク |
B:キツネ |
図4 毛根からの脱毛
(3) 虫害による抜け毛
毛皮の虫害は、鱗麹目蛾蝶類(コイガ、イブ)と鞘麹目甲虫類(ヒメマルカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシ)に属する昆虫の幼虫によるものです。特に日本ではイブが主な「犯人」であり、成虫は体はね長5〜6mmの小さな蛾で、麹は屋根型にたたみ、前麹には3つの斑点があります。5月中旬から羽化しはじめ、年1〜2回発生します。幼虫は毛の根元を喰い歩き、噛み切った毛で筒型の巣を作り、5〜8回脱皮を繰り返し、幼虫態で越冬し、3〜4月にはさなぎ踊になります。図5にイガの成虫、幼虫、筒型の巣を示します。イガの虫害を被ったミンク毛皮では、図6に示すように噛み切り跡や歯形が付いた刺し毛をはじめ、筒状の巣や粒状の糞が観察されます。
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図5 イガの成虫と巣と幼虫
A:噛み切られた刺毛 |
B:イガの糞 |
図6 イガ食害のミンク
(4) 節早による抜け毛
毛皮の剥皮は、毛の成長が退行期から休止期に向かう時期「本節(プライム)」に行われ、その時期の毛根は萎縮して皮の浅い部分にあり、製造時に毛根が機械的損傷を受けません。しかし、図7に示すように、本節前の成長期末期(節早)に剥皮された毛皮の毛根は皮下組織まで深く伸びており、製造時には皮裏面に毛根が飛び出し、機械的損傷を受け、抜け毛の原因となります。節早の青キツネでは、図8に示すように毛根が深く伸びており、皮裏面にまで飛び出しています。
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図7 節早と本節(プライム)
A:皮断面 |
B:皮裏面 |
図8 節早の青キツネ
(5)皮の漉き過ぎによる抜け毛
毛皮を薄く軽く仕上げるためサーキュラナイフで皮裏面を漉きますが、図9のように漉き過ぎると毛根まで削ぎ落とし、抜け毛の原因となります。漉き過ぎのミンクでは、図10に示すように毛にはナイフ跡が、皮裏面にはナイフで削がれた毛根が観察されます。
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図9 漉き過ぎ(模式図)
A:刺毛のナイフ跡 |
B:皮裏面の漉き面 |
図10 漉き過ぎたミンク
(6)縫製加工時の浮き毛処理不足
レットアウトのように細かく裁断縫製加工するとき、図11のように、毛包も同時に裁断されため、毛の固着が緩められ、浮き毛が発生します。この浮き毛は通常ドラミング処理により除去されますが、処理不十分な場合抜け毛を発生させます。浮き毛の根元は図12に示すように、裁ち切り刃物のシャープな裁断跡が観察されます。
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図11 裁断による浮き毛(模式図)
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図12 裁断されたミンク刺毛
3.まとめ
抜け毛の原因は抜け落ちた毛をミクロ観察すれば推測できますが、さらに皮の表面や裏面、そして残留物を調べると、それぞれの原因に応じた特徴があり、発生メカニズムが容易に推測できます。さらに、今回紹介した顕微鏡観察による鑑定手法だけでなく、毛小皮の損傷観察、付着物の定性分析、毛色の組織学的検査、毛及び皮の化学的損傷検査、熱的損傷測定等の手法を組み合わせれば、判定の難しい腐敗や劣化等による抜け毛についても、推測が可能となります。
(皮革試験所 製革グループ 奥村 章)